投稿日時 2025-05-22 11:45:21 投稿者 ![]() 斎賀久遠 このユーザのマイページへ お気に入りユーザ登録 |
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昔々、世界の端っこに灰の国と呼ばれる場所があった。 そこではすべてが褪せていた。花は咲かず、空は曇り、誰も笑わない。 けれど、その中心にひとりだけ、色を持つ者がいた。魔法使いだった。 彼は色を作れた。火の赤、海の青、命の緑。彼が振るう魔法は、世界に一瞬だけ“美しさ”を思い出させた。 でもね、彼の魔法には代償があった。 「誰かの記憶を燃料に、世界に色を灯す」 だから彼は自分の記憶を一つずつ使った。家族の顔。名前。笑い声。 次に、友の声。恋した少女の瞳。初めて見た空の色。 魔法は見事だったよ。花は咲き、空は澄み、人々は「ありがとう」と笑った。 でも魔法使いはもう、誰のために魔法を使っていたのか思い出せなかった。 最後に彼が使った魔法は、「この国に春を」という願い。 その代わりに、彼は自分の名前を失った。もう誰にも呼ばれない、ただの影になった。 そして今でも、灰の国には春がある。 |
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