投稿日時 2025-05-22 12:23:57 投稿者 ![]() 斎賀久遠 このユーザのマイページへ お気に入りユーザ登録 |
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第2話:『時計塔の魔術師と、五百年の手紙』 かつて、空の裂け目から時がこぼれ落ちた。 それを閉じたのは、たったひとりの魔術師。 彼は“時間を巻き取る魔法”で裂け目を封じ、そのまま、世界の時を見守る存在になったんだ。 それから五百年。彼は誰とも話さず、ただひたすらに―― 一通の手紙を、何度も書いては燃やしていた。 彼が愛した少女は、人間だった。もう何百年も前に死んでいる。 でも彼はまだ、その少女に伝えられなかった言葉を探していた。 「君に出会えて、幸せだった」 ――それだけが、どうしても、書けなかった。 彼の部屋には灰しか残っていない。 書いては燃やし、また書いて、燃やす。 ある日、突然彼の塔に訪問者が来る。 「この手紙を、受け取ってほしい」と言って差し出されたそれは、 五百年前に少女が残した“未来の彼”への手紙だった。 中には、こう書いてあった。 「あなたは私を忘れてしまっても、私はあなたを忘れません。 どうか、あなたが“時”の中で、独りぼっちになりませんように。」 彼は、それを燃やさなかった。 初めて、“伝えるべき言葉”が胸に浮かんだ。 「ありがとう」 ただそれだけが、涙と一緒に漏れた。 そして次の朝、塔は静かに崩れていた。 まるでその役目が、ようやく終わったかのように。 |
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