投稿日時 2025-05-30 20:55:29 投稿者 ![]() 斎賀久遠 このユーザのマイページへ お気に入りユーザ登録 |
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第二十二話:#牙2本、鼻血1リットル、爆発は無限 ザラの体はオーク――いや、もはやウルクハイへと進化した怪物に、岩陰へ引きずり込まれていた。 そのごつい手がザラの喉元を押さえつけ、腰には禍々しい“霊圧の剣”が鈍く輝いている。 ウルクハイの瞳には、獣の本能に加えて、奇妙な理性の光が宿っていた。 彼は静かに剣を抜き、ザラの首元に突きつけつぶやく。 「……ここで殺せば、墓所に眠る霊圧の封印も、解放されるぞ」 その言葉にザラはウルクハイの知能の高さを確信した。 すると、霊圧の剣が、まるで主導権を奪うようにウルクハイの腕を止めた。 「待って。 こいつはただの人間じゃないのよ。 ザラ=メルセデス、しゃらくさい女狐の上級ネクロマンサー――」 声色は女のそれで、どこか楽しそうに、しかし慎重さを隠さない。 「こういう手合いは、下手に出血させるとろくなことがないの。 特に“血”を媒介する連中は、死の間際に何を仕込んでくるかわかったもんじゃないからね」 ウルクハイは無言のまま、しかし剣を振り下ろす手を止める。 霊圧の剣はザラをジロジロと“観察”しながら囁く。 「ねぇ、アンタ――今、何か呪詛を仕込もうとしてたでしょ? その顔、バレバレよ。 正直、ネクロマンサーってやつは、一番面倒なの。ネクロマンサーの私が言うんだから間違いないわ」 ザラは口を塞がれて呻くが、 その双眸だけが、決して怯まずにウルクハイと剣を睨み返していた。 ウルクハイもまた、奇妙な理性と衝動の間で、 次の一手を慎重に図ろうとしていた―― **************************** レイス達が目を覚ますと、すぐそばで見張りをしていたはずのザラが居ない。 「……おい、ザラは? ティナ、ヨミ、見てないか?」 「あれ?さっきま見張りはザラさんが……」 「まさか――!」 その時、ボーンが急に駆け出す。骨をカチャカチャ鳴らしながら、 坑道の脇道――ザラが引きずり込まれた方向へ一直線に走っていく。 「ちょ、まてよボーン!……嫌な予感しかしないな」 レイスたちが後を追うと、 横道の先、鉱石のきらめきの中で、巨大なウルクハイが待ち構えていた。 その腰には、禍々しい“霊圧の剣”が不気味なオーラを纏い、ザラは拘束されたまま地面に倒れている。 ウルクハイの背後、剣が柔らかく囁くようにレイスへ語りかける。 「あらレイスちゃん、、会いたかったわ。 ほら、私の愛情でオークちゃんがウルクハイに進化したわよ。アナタも私の所有物になればパワーアップ間違いなしよ?」 レイスは剣を睨みつけたまま、歯を食いしばる。 ヨミが小声で近づき、レイスの耳元にささやく。 「レイスさん。精霊ヴェリス――出力マックスで呼んで。今度こそ一撃でぶっ飛ばしてください!」 「ええい、またあの厨二詠唱かよ……!」 覚悟を決めてレイスは叫ぶ。 「時の狭間にて風を裂き、影より早く我が身を駆る――《迅雷刻印・ヴェリス!》」 途端に、足元に風の紋様が爆発的に輝き、 どこからともなくマンデーの軽い声が脳内を駆け抜ける。 《本当に良いんですね?今回は手加減しませんよ。加速制御ナシ 召喚条件、全項目クリア。精霊ヴェリス、最大出力――》 「俺のタイミングで、さん、にい、いち、せーので発動し・・・ちょ、おま――!」 レイスの身体が、信じられない速さで前へと弾かれる。 坑道の床が“風の直線”に変わり、 ウルクハイへ一直線に―― レイスの叫びとも悲鳴ともとれる声が響く 「やめてええええお!!」 ドガァァァン!! 轟音と共にウルクハイは吹き飛び、壁をぶち抜いて転がった。 ……次の瞬間、レイスもそのままブレーキがきかず、 鼻から盛大に血を噴き出しながら地面をゴロゴロ転がっていく。 「ぶほっ……鼻、鼻が……俺の鼻まだついてる??!」 ティナは目を輝かせて拍手。 ヨミも「お見事!」と両手を叩く。 ザラはぐったりしながらも、ボーンの手を借りて起き上がる。 「……あなたたち、加減って言葉を知らないの?」 レイスは鼻血ダラダラのまま、親指を立てた。 「――結果オーライ、だろ……!」 坑道の空気が、わずかに和んだ気がした。 ザラはレイスの鼻血にも動じず、すぐさま両手で印を結ぶ。 その眼差しは真剣そのものだ。 「――今度こそ、終わりよ」 ザラは霊圧の剣を強く睨みつけ、術式を畳みかける。 印を結ぶ指が空中に奔流のような紋様を描き、霊圧の剣を囲む光が一瞬で収束する。 「《霊圧解除・鎮魂》」 剣に取り憑いていた霊圧は、まさにザラ本人が憑依させたもの。 そのため、解除もまるで“スイッチを切る”ようにあっさりと―― 剣から紫色の霧のような存在が浮かび上がる。 霊圧は悔しげに叫んだ。 「ザラ!アンタだけは絶対に許さないんだからねぇぇぇ!!」 その声は坑道の奥へ、塵のように消え去った。 静寂が戻るかに見えた――その瞬間、 ウルクハイが低く唸ると、坑道の闇の奥から、 ゴブリン、オーク、オークハイの群れが一斉に押し寄せてくる! 「……数が、やばい!」 「さすがに無理、逃げるぞ!」 レイスが叫ぶやいなや、全員で出口方向へと駆け出す。 その時、ティナの目がひときわ鋭く光った。 「……あれ!ウルクハイの牙!」 レイスに吹き飛ばされたウルクハイの頭のそば、 見事な二本の牙がごろりと転がっている。 ティナは残った火薬を一気に点火し、坑道の奥へ向かって全力投擲! 鼻血を垂れ流しながら、投げられた火薬をうつろな眼差しで追いかけるレイス。 「ティナ・・・お前マジで俺たち殺す気なの・・・」 「みんな、伏せてぇぇ!」 ティナの声とともに轟音と爆風、土煙が鉱山全体を揺らす。 モンスターの群れが爆発で足止めされたその隙に、 ティナは両手にウルクハイの牙×2本を抱えて、煙の中から泥まみれで這い出してきた。 「げっとぉぉぉぉぉ!!」 レイスは唖然としながらも、ティナを小脇に抱えて出口へ向かって走り出す。 「ホルド爺に絶対文句言ってやる、こんな無茶する奴のどこが俺とそっくりなんだよ」 ヨミがホコリまみれになりながら坑道の出口までどうにか辿り着いた。 「もう……ティナちゃん無茶しすぎ!」 ザラがレイスに抱えられたティナの頬を片手でつかんで叱りつける 「ティナ、あなたには私が大人が本気で怒るとどうなるか、後でしっかりと教えてあげる」 頬を抑えられて何か話そうとするティナだが言葉にならない。 レイスは振り返らず、 「よし、今度こそ本気で撤収だ!前回と同じ爆破オチだなんて誰にも言うなよ!」 全員が一目散に鉱山の出口を目指して駆けだす。 坑道の奥には、ティナの残した爆薬の煙と、まだ続くモンスターたちの絶叫だけが響いていた――。 |
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