投稿日時 2025-06-07 20:14:05 投稿者 ![]() 斎賀久遠 このユーザのマイページへ お気に入りユーザ登録 |
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第五十二話:#前衛で稼げなくなった世界の片隅で 約束通り、レイスはザラの遺体をその腕で抱きしめ、 地上を目指して歩き出す。 インプロージョン爆弾による魔力障害も、徐々に収まりつつあった。 ティナの爆弾が開けた99階から50階へ続く巨大な大縦穴―― その底から、ミヨの浮遊魔法で一行はゆっくりと上昇していく。 ザラを抱えたままのレイスの表情は、どこか遠く虚ろだった。 「……なんか、力が入らない……視界が暗くなる……」 言葉が途切れ、レイスの体がぐらりと傾ぐ。 その時―― レイスに抱かれていたはずのザラの指が、ピクリと動いた。 重力に負けて倒れそうになったレイスを、 逆にザラがしっかりと支え直していた。 すでにレイスは、静かに意識を失っていた。 ザラの唇がかすかに動く。 「……死後発動型、黒魔術。 最初に触れた相手の生気を少しだけもらう……。 完全に奪うのも可哀想だから、ね」 ザラはいたずらっぽく微笑み、 ぐったりしているレイスの頬にそっとキスをした。 その瞬間、ザラの頬にほんのり血色が戻り、瞳が静かに開く。 ミヨが驚いて叫ぶ。 「ザラさん、生きてる!!よかった!」 その場にいた全員が、ほっと息をつく。 静かな安堵が、辺りにふわりと広がった。 そんな中、ふいにミヨが顔を真っ赤にして口を開いた。 「って、どさくさに紛れて今レイスさんにキスしてましたよね?! それ絶対おかしいでしょ!!」 ティナは爆笑しながらツッコミを入れる。 「ヨミちゃんがずっと狙ってたのにねぇ~? あーあ、先越されたー!」 ヨミは顔をさらに真っ赤にして、 「ち、ちがっ……!誰がそんな……! もう、信じらんない!」 浮遊魔法でふわふわと上昇する中、 一行の会話はどこか呆れるほど明るく、 誰も“世界の危機”が終わったばかりとは思えない賑やかさだった。 やがて一行は、地上の朝日に包まれた。 待っていたのは、誰も自分たちを英雄だなんて呼ばない静かな街だった。 前衛に拍手を送る人もいなければ、SNSでバズる話題もない。 でも、そんなことはもう気にならなかった。 一緒にバカをやれる仲間がいて、 バカみたいに命を張って、 それでも、こうして――まだ生きている。 「……前衛で稼げなくなった世界の片隅でも、 守りたい奴らがいる。それだけで、もう十分だろ」 レイスが肩越しに空を見上げると、 どこか遠くで鳥の声が響いた。 静かな朝の光の中、一行はゆっくりと歩き出した。 --- **完** |
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