タイトル | 『前衛で稼げなくなった世界の片隅で』 | ||||
タグ | *鼻血 *ファンタジー | ||||
コメント | 第二十一話:#鼻からモーニングコール 爆発の余韻が残る鉱山の現場まで、四人は警戒しながら戻ってきた。 ハイオークが倒れていたあたりには、大きな血だまりが残っている。 その血は点々と細い通路の奥へ続いていた。 ザラは無言でしゃがみ込み、血だまりに手をかざす。 すると、手のひらほどの大きさの血の塊が、空中にふわりと浮かび上がる。 「――追跡術、発動」 ザラが指先で合図すると、血の塊が意志を持ったかのように、鉱山の奥へと滑り出した。 ティナは目を輝かせてザラのそばに寄る。 「わー!それ、どうなってるの?どんな仕掛け?どうやって動かしてるの?いいなー! 同じの作ってみたいなぁ……ねえ、ザラさん、コツとかある?」 ザラは呆れたように肩をすくめる。 「魔術と爆薬は違うの。……真似してもロクなことにならないから、やめておきなさい」 ティナはそれでも全然気にせず、手帳に何やら書き留め始める。 「爆薬に血を混ぜて撒いてみる?ゾンビみたいに自分から追ってきたりして!……ねぇザラさん、やっていい?人体実験的な意味で!」 そんなやりとりを横目に、ヨミが前を歩くレイスの背中に声をかける。 「手負いの獣は追い詰められると一番危ないですから、レイスさん、油断しないでくださいよ?」 レイスは剣を軽く抜き直しながら苦笑する。 「わかってる。今日はもう十分すぎるくらい命の危険を感じてるからな……ティナも、ヨミのそばから離れるなよ」 「はーい!」 「はーい!」 ――なぜか息ぴったりの二人。 そのまま、ティナとヨミは追跡の合間にこそこそ恋バナを始める。 「ねぇヨミお姉ちゃん、やっぱり好きな人っているの?」 「えっ……そ、そんな話ここでする? でも……そういうの、女の子の特権っていうか……」 「ふふっ、やっぱりいるんだ~」 まるで遠足気分。 ティナとヨミはワクワクした顔で盛り上がっている。 レイスは半分キレ気味に怒鳴る。 「なぁもうお前ら頼むから真面目にしてくれ!!……ってティナそれ火薬!?それ火薬!?!?まだ持ってるとか嘘だろ?」 ザラは頭痛をこらえるようにため息をついた。 「……この緊張感のなさでよく生き延びてるものね」 レイスは前を睨みながら、ぼそりと呟く。 「生きて村に帰れたら、その理由を神様にでも聞いてみるよ……」 血の塊を追い、四人は静かに鉱山の奥へと進んでいく。 血塊は鉱山の奥、炭坑の横穴へとゆっくり進んでいく。 四人は慎重に後を追い、暗い坑道へと足を踏み入れた。 「……ここ、思った以上に狭いですね」 ヨミがささやく。 「奥で袋小路になってたら、挟み撃ちが一番危険だわ」 ザラは即座に判断を下す。 「殿(しんがり)に一体召喚する。――《骸骨召喚(ボーン・アライブ)》」 ザラが札を切ると、鈍い音とともに岩壁からスケルトン――“ボーン”が姿を現す。 骨の体をギシギシ鳴らし、かすかにペコリと頭を下げる仕草すらしてみせる。 レイスの顔が一気に明るくなった。 「おおっ、久しぶりだな――相棒!生きて……いや、今日もちゃんと骨だな!」 ボーンは、ひょうきんに指をポキポキ鳴らしてみせる。 ティナはきょとんとした後、「すごい・・・どうやって動いてるの?何の動力も無しに?」と興味津々で見つめる。 ヨミも苦笑しながら「今日は頼もしい味方が多くて心強いです」と続く。 ザラは淡々と命じる。 「殿を任せるから。何か来たら、音で知らせなさい」 ボーンはコクコクとうなずき、まるで護衛騎士のようにPTの最後尾を守る。 「さあ、ボーンも加わってくれたことだし、奥へ進もうぜ!」 レイスは妙にウキウキした声で先を急ぐ。 後ろでボーンが軽く手を振っている―― まるで「まかせろ」と言わんばかりに。 こうして、四人と一体(?)は、 暗い炭坑の奥、血の塊の導く先へと歩み始めた。 狭い炭坑の中、血の塊を追いながら歩き続ける四人と一体。 レイスはふと、前を行くティナに問いかけた。 「なあティナ。この坑道、どこまで続いてるんだ?」 ティナは頭の後ろで三つ編みをぽりぽり掻きながら、 「うーん、正直分かんないな」と首を傾げる。 「おじいちゃん――ホルドからも聞いたことあるけど、この炭坑は大昔から何度も掘り直されてて、 今じゃ、全部の道を知ってる人なんて誰もいないんだって」 「地図も、あんまり役に立たないみたい。昔は金脈とか魔鉱脈を見つけるたびに適当に掘り足してたから、 行き止まりや隠し部屋も多いんだってさ」 ヨミが周囲を不安げに見回す。 「じゃあ……本当に何が出てくるか分からない場所、ってことですよね」 「そうそう、たまに掘削中の人が“帰ってこなかった”みたいな話もあるよ」 ザラは少し警戒しながら呟く。 「――不気味な話ね。出口が塞がれたら、逃げ道も限られる。慎重に進みましょう」 レイスは自分の足音がいつもより重く感じるのを意識しながら、ぼそりと呟いた。 「……この奥に、何か住み着いてたりしないよな?」 ティナがやけに無邪気に返す。 「うーん……最近、村でも“巨大なオークが見えた”とか、“墓所から逃げた怪物が棲みついた”って噂もあるけど―― たぶん大丈夫だよ!」 たぶん、が一番怖いんだが……とレイスは心の中でツッコむ。 ヨミが不安そうにレイスの袖をつかむ。 「もしここで死んだら、おばあちゃんに怒られる気がします……あと犬にも……」 ボーンがカチャカチャと骨を鳴らし、坑道の暗闇を見据える。 レイスは剣の柄を強く握り直した。 どれくらい歩いたのだろうか。 坑道の中は、照明魔法を消せば途端に漆黒。昼なのか夜なのかも分からない。 再出発した時点で既に夜も更けていた。ティナは何度も大きなあくびをし、 レイスは「子どもは寝る時間だぞ」とボヤきながらも、交代で仮眠を取ることになった。 ザラが見張り番になった頃、静寂の中でふと、坑道の奥に微かに光るものを見つける。 「……あれは?」 ザラはボーンにだけ小声で指示を出す。「少し離れる。こっちの見張り、お願い」 ボーンは骨で敬礼し、真面目な顔(?)で見張りに立つ。 ザラは音を立てず、光るものの方へと歩み寄る。 10mほど先、岩壁の隙間で煌めく鉱石の欠片だった。 「……ただの鉱石?」 そう思い手に取った瞬間―― 脇の暗がりから、分厚い手が彼女をガシッと掴み、力任せに横道へと引きずり込む! ザラは抵抗しようとするが、ウルクハイに進化した巨大なオークがすばやく口にボロ切れを詰め込み、声を封じる。 その腰には、見覚えのある“霊圧の剣”が妖しく輝いていた。 闇の中、剣から妙に気味の悪い女の声がザラにだけ聞こえる。 「ザラ=メルセデス……ふふ、アンタ侮ると危険だと思ってたのに、 のこのこ出てくるなんて、私ってラッキーねぇ」 ザラは声を出せずもがくが、冷静に“ボーン”へ思念を送る。 (ボーン、レイス達を起こしなさい――!) ボーンは一瞬キョトンとしたが、主の危機を悟り、慌てて駆け寄る。 骨の腕を激しく振り回しながら「カチャカチャカチャカチャ!」とものすごい勢いでレイスたちの肩を叩く。 しかし―― レイス(爆睡中)「……う~ん……マンデー、朝飯……」 ヨミ(爆睡中)「だめだよぉ、遅刻しちゃうよ……」 ティナ(爆睡中)「……爆薬……はんぶんこ……」 ボーンは必死に骨を鳴らし、ジャンプしたり、剣の柄をレイスの頬に押しつけたり、 最後は“カラカラ踊り”まで披露するが、誰も起きない! しまいにはヨミが寝ぼけたまま、 「おやすみ、ボーンさん……」と頭を撫でてしまう始末。 ボーンは「カラ……」と肩を落としつつも、 諦めずに何とか“非常事態”を伝えようと大騒ぎするのだった――。 ボーンは主ザラの思念を伝えるようにレイスの頭と自らの頭を突き合わせる。 <……レイス……起きろ……> ザラの思念がわずかにレイスの意識に届いた。 「……ザラ、モーニングコールならもっと可愛く……」 そして、ボーンがとどめに思い切りレイスの鼻に指を突っ込んだ瞬間―― 「がぼっ!? だ、誰だ鼻の穴に骨指突っ込んだ奴!?俺は鼻血出やすいからやめて・・・」 ようやく全員が、寝起き最悪の顔で叩き起こされたのだった――。 |
||||
iコード | i970528 | 掲載日 | 2025年 05月 30日 (金) 12時 50分 03秒 | ||
ジャンル | イラスト | 形式 | PNG | 画像サイズ | 1024×1536 |
ファイルサイズ | 2,467,266 byte |
◆この画像のURL | |
◆この画像のトラックバックURL |